私が結婚式の招待状の宛名を書き始めたのは、送付期限の一週間前。まだ時間に余裕がありました。

取りかかりが遅れたのは、仕事に遊びに忙しくしていたから言い訳のしようがありませんが、「最悪徹夜すればどうにかなるだろ」と思っていました。

元々書道は苦手、字も上手ではないので、無意識のうちに遠ざけていたのだと思います。

いざ書き始めるとまあ、一通書くのに時間がかかること。間違えないように何度も住所録を見返して、丁寧を心がけると一通に五分近くかかります。

筆ペンのインクが手につかないように注意もしました(左利きは時間がかかります)。

旦那の分も書くことになっていたので、合計五十通。果てしない気持ちになり、一通一通書いていきました。

初日は十通で集中力がダウンし、誤字だらけになったので就寝しました。

次の日、その次の日は寝てしまい、さあそろそろ本腰を、と思った送付期限の三日前。順調に書きすすめているところへ旦那がやってきました。そして一言。「お前、字下手だよなあ」分かっていますとも、ええ。「ま、俺より綺麗だけど」だから頼まれて書いているんですけど。

急に切れる集中力。私は引退する歌手のように筆ペンを置くのでした。

この日は十三通でダウン。残り二日にして二十七通。途方に暮れそうでしたが、流石に前日徹夜はするまい、と次の日に書き上げました。

結婚式の招待状の宛名書きは実に労力が入ります。もうすることはないと思いますが、怠けていないでもっと早く始めるべきだったと心から思ったのでした。

封筒の紙質によって墨が乗りづらいものもあります

結婚式招待状宛名書きのお仕事を数回させていただいたことがあります。

通っていた書道教室の師範が展覧会のため多忙だった時に、代わりに宛名書きをやってもらえないかと声をかけていただいたのがきっかけです。

実際の宛名書きの際は、一般的な写経用の筆よりも少し太い筆と固形墨を使っています。

依頼者から封筒と宛名リストをお預かりしたら、宛名書きを始める前に、いくつか持っている固形墨の中から封筒の紙質に合いそうな墨を選び、墨液の濃さを作っていきます。

封筒の紙質によってにじみやすかったり墨が乗りづらいものもあり、また書いた後に墨が乾いた時の状態も異なりますので、ご想像よりもおそらく手間暇をかけて調節しています。

墨汁も手軽ではありますが重厚感のある黒色の筆跡が出ないため、私の場合は固形墨しか使っていません。

この点は細かいこだわりかもしれませんが、ご依頼者の方のご親族や年配の方など、書に慣れた方がご覧になった際に質の問われる部分でもありますのでかなり気を配っています。

墨を磨りながら宛名書きを始めるための“心”も整えていく、大切なひとときでもあります。

墨が決まればいよいよ宛名書き。お預かりしたリストの宛名を、心を込めて丁寧にしたためます。

ご住所もお名前も一つひとつ異なるので、封筒のスペースの中で字の配置バランスに気をつけながら書いていきます。苗字に多い「さいとう」の「齋」、「わたなべ」の「邊」など、画数が多い漢字は今でも少し苦手意識があります。

特にお名前の間違いは絶対に許されませんので細心の注意を払っています。

封筒は余分にお預かりしていますが、作業途中で追加のリストをいただくことも間々あるので、できるだけ書き損じのないように仕上げるのも大切です。

この頃では招待状の宛名書きも印刷任せになっていると聞きますが、手書きの宛名ですとやはり温かみが違います。依頼者の方に出来栄えを喜んでいただけると、私としてもすごくやりがいを感じています。